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神戸地方裁判所尼崎支部 昭和48年(ワ)235号 判決 1975年1月30日

原告 日本硝子尼崎労働組合

右代表者執行委員長 美納荒雄

右訴訟代理人弁護士 足立昌昭

同 垣添誠雄

同 上原邦彦

同 川西譲

被告 日本硝子株式会社

右代表者代表取締役 神原藤佐尾

右訴訟代理人弁護士 中筋一朗

同 益田哲生

同 荒尾幸三

当事者参加人 日本硝子労働組合尼崎支部

右代表者支部長 前田文敏

右訴訟代理人弁護士 黒田登喜彦

同 仙波安太郎

主文

一、被告は、原告に対し金七万二一七円およびこれに対する昭和四八年三月二六日から右支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

二、参加人の請求をいずれも棄却する。

三、訴訟費用中、原告と被告間に生じた分は被告の負担とし、参加人と原被告間に生じた分は参加人の負担とする。

四、主文一項につき仮に執行することができる。

事実

第一、当事者の求めた裁判

(原告)

一、被告に対する請求

1、被告は、原告に対し金七万二一七円(六万八二二七円とあるのは計算の誤りと認める)およびこれに対する昭和四八年三月二六日から右支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

2、本訴によって生じた訴訟費用は被告の負担とする。

3、仮執行の宣言。

二、参加人の請求に対し

本案前

1、参加人の参加申立を却下する。

2、参加申立費用は参加人の負担とする。

本案

1、参加人の請求を棄却する。

2、参加によって生じた訴訟費用は参加人の負担とする。

(被告)

一、原告の請求に対し

1、原告の請求を棄却する。

2、本訴によって生じた訴訟費用は原告の負担とする。

二、参加人の請求に対し、

1、参加人の請求を棄却する。

2、参加によって生じた訴訟費用は参加人の負担とする。

(参加人)

1、原告と参加人との間において、原告の被告に対する別紙目録(一)記載の合計金七万二一七円(六万八二二七円とあるのは計算の誤りと認める)の債権が存在しないことを確認する。

2、被告は参加人に対し金六万五三二〇円を支払え。

3、訴訟費用は原被告の負担とする。

≪以下事実省略≫

理由

第一、当事者参加の適否

一、原告組合の本訴請求は、その主張のチェック・オフ慣行に基づき、被告会社に対し別紙目録記載(一)欄の控除組合費の支払を求めるものであるのに対し、参加人組合の請求は、その主張のチェック・オフを原因として、被告会社に対し同目録記載(二)欄の控除組合費の支払を求め、原告組合に対し原告組合の被告会社に対する同目録記載(一)欄の控除組合費に相当する債権の不存在確認を求めるものである。しかしながら、チェック・オフといっても、双方の主張によれば、原告組合と被告会社間のものと参加人組合と被告会社間のものは、それぞれその発生原因を異にし、両者が両立するものであって、原告組合の被告会社に対する前記控除組合費の請求が認容されたからといって、必ずしも参加人組合の被告会社に対する前記控除組合費の請求が否定されるわけではなく、両請求は本来矛盾する関係にはない。このことは、本件組合員二七名は、脱退した原告組合に対しては、その組合規約の定めるところにより、脱退した月分の組合費支払義務を免れないのであり、加入した参加人組合に対しては、その組合規約の定めにしたがって、加入した月分の組合費支払義務を負うのであり、その故に、本件組合員二七名分の昭和四八年三月分組合費につき、両組合から被告会社に対しそれぞれ組合費控除依頼がなされたことから明らかである。

ただ、本件においては、原告組合、参加人組合のいずれの請求も本件組合員二七名を相手方として組合費の請求をするものではなく、被告会社を相手取ってチェック・オフによる被告会社の保管金の支払を求めるものであって、双方の主張によれば、被告会社の右保管金は、双方の請求を充たすものでないこと明かであるけれども、そのことの故に前記の理を否定することはできず、双方の請求は両立することに変りはないものというべきである。したがって、参加人組合は、訴訟の目的の全部もしくは一部が自己の権利なることを主張する第三者には該当しないものである。

また、以上によれば、参加人組合は、訴訟の結果により権利を害せられるべきことを主張する第三者にはならないものと解せられる。

そうすると、参加人組合の請求は、民訴法七一条所定の参加要件を欠くものということができる。

二、しかしながら、参加人の請求が参加要件を欠き参加申立としては不適法な場合でも、それが訴の要件を具備している限りは、これを新訴の提起として取扱うのが相当であると解すべきであり、本件の場合、参加人組合の請求は訴として欠くるところはないから、これを原告の本訴に併合審判することにする(参加人組合は参加人でなく、昭和四八年(ワ)第四五八号事件原告と表示すべきであるが、便宜参加人と称する。)。

第二、原告の請求について

一、請求原因一、二の事実および同三のうち、原告組合が被告会社に対し、本件組合員二七名につき、昭和四八年三月分の組合費として、同目録記載(一)欄の各組合費の控除依頼書を提出したことは原告組合と被告会社間に争いがない。

二、≪証拠省略≫によれば、被告会社には原告組合と参加人組合が併存していたところ、本件組合員二七名分については、原告組合のみならず参加人組合からも重複して被告会社に控除依頼書が提出されたので、被告会社は、昭和四八年三月一三日両組合に対し本件組合員二七名分につき両組合間で調整するよう申入れたが、両組合間でその解決がつかない様子であったので、被告会社は、同月二〇日両組合に対し前記組合員の分については組合員個人の意思を尊重することとし、組合員個人からいずれか一方または両方の組合の関係でチェック・オフを希望するかどうかを確認してその意思に従うが、両組合間で同月二四日午前一〇時までに調整ができればそれに従う旨を通知したこと、そのうち、原告組合は、被告会社を相手取り神戸地方裁判所尼崎支部に対し仮処分申請(昭和四八年(ヨ)第六五号事件)をした結果、昭和四八年三月二三日同裁判所は、被告会社は前記組合員に対し昭和四八年三月分の賃金のうち別紙目録記載(一)欄の各金員を支払ってはならない旨の仮処分決定を発したため、被告会社としては右金員合計七万二一七円を保管していることが認められ、右認定を動かすに足りる証拠はない。

右認定のとおりの経過であって、被告会社としては、原告組合と参加人組合の双方から本件組合員につき昭和四八年三月分組合費の控除依頼書が提出され、そのいずれの側のためにもチェック・オフするか決しないうちに、前記仮処分決定が出され、別紙目録記載(一)欄の各金員合計七万二一七円を保管しているものであるが、前記仮処分決定は、その内容を検討してみると、被告会社をして原告組合の前記三月分の組合費の控除を実行させ、右控除組合費を被告会社の保管下に置こうとするものであり、また、被告会社の現に保管している控除組合費は右以外には存しないのであるから、前記仮処分により結果された状態が被告会社の行った三月分の組合費控除の現状に外ならないのである。したがって、被告会社の右保管金は、参加人組合のためにもまた控除組合費として留保されているものとみることは困難であり、原告組合のためその組合費として控除されたものと解するのが相当である。

三、そして、チェック・オフは、事務の委託として準委任の性質を併せもつものであり、会社が保管中の控除組合費は、その事務の処理上受取ったものに外ならないから、被告会社は、原告組合に対し右保管中の控除組合費である金七万二一七円およびこれに対する期限後の昭和四八年三月二六日から右支払ずみまで民法所定率の年五分の割合による遅延損害金を支払うべき義務がある。

第三、参加人の請求について

一、先ず、参加人組合の原告組合に対する請求から判断する。参加人組合は、原告組合の被告会社に対する控除組合費についての債権が存在しない理由として、原告会社が本件組合員二七名に対する昭和四八年三月分の組合費の請求権を有しない旨主張する。本件組合員二七名が別紙目録記載(一)欄のとおり昭和四八年二月二六日から同年三月六日までの間に原告組合を脱退したことは当事者間に争いがなく、≪証拠省略≫によれば、原告組合の組合費は月単位で定められ、その算定期間は賃金のそれと同じく毎月一九日から翌月一八日までであること、したがって、昭和四八年三月分の組合費については、同年二月一九日から同年三月一八日までがその算定期間であり、その間に原告組合を脱退した組合員からは右二月分の組合費を徴収するものであることが認められ(る。)≪証拠判断省略≫

本件組合員二七名は、前記のように、昭和四八年二月二六日から同年三月六日までの間に原告組合を脱退したものであるから、原告組合の三月分の組合費の支払義務がある。右に反する参加人組合主張のような原告組合の組合費徴収の取扱いは認めることができない。そうすると、原告組合は、被告会社に対し本件組合員二七名の三月分の控除組合費に相当する別紙目録記載(一)欄の合計金七万二一七円の債権を有することになる。

参加人組合は、本件組合員に対し昭和四八年三月分の参加人組合の組合費として同目録記載(二)欄の合計金六万五三二〇円の請求権を有する旨主張し、≪証拠省略≫によれば、参加人組合は、本件組合員二七名に対しその主張のような組合費の請求権を有していることが認められるが、それがあるからといって、原告組合の有する前記債権を否定する理由とはならないことは、前述したところから明かである。

また、参加人組合は、原告組合の前記組合費につき、本件組合員二七名がその組合員であった期間に応じ日割計算すべき旨主張するが、前示認定のように、原告組合の組合費は月単位で定められているものであるから、組合員が月の中途で脱退した場合でも、その月の組合費全額の納入義務があるものと解するのが相当であるから、右主張は採用することができない。

二、次に、参加人組合の被告会社に対する別紙目録記載(二)欄の控除組合費合計金六万五三二〇円の支払請求についてみるのに、参加人組合が本件組合員二七名に対し右組合費の支払を求めうることは前記認定のとおりであるが、被告会社が現に保管中の控除組合費は原告組合のためのものと認められること既に第二、二において説示したとおりであり、そうである以上、被告会社に参加人組合のための控除組合費は保留されてないことになるから、それが被告会社自身に何らかの不履行の責任を生ずることは別として、被告会社に対し右控除組合費の支払を求める参加人組合の請求は、右の点においてその理由がないことになる。

第四、結語

以上の理由により、原告組合の本訴請求は理由があるのでこれを認容し、参加人組合の請求はいずれも理由がないのでこれを棄却することとし、訴訟費用の負担につき民訴法八九条、仮執行の宣言につき同法一九六条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 奥輝雄 裁判官 西川道夫 弓木龍美)

<以下省略>

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